千葉県、千葉市、柏市の地方議員、弁護士の皆さんと伺いました。
法改正により、東京都から特別区に児童相談所を移管できるようになっています。
よりきめ細かな対応をするために、市区町村への事務移管という流れがあります。
先行する江戸川区児童相談所に視察研修に行ってきました。
子どもの社会的養護に関心の高い、旧知の地方議員の皆さんと弁護士の方々とお邪魔しました。
1.都道府県から現場の市区町村への権限移譲の流れ
- 都道府県、政令市は必置。中核市のみ希望すれば設置できたが、特別区は対象外。これについて、長年特別区への児童相談所の事務移管を国、都などに働きかけてきた。
- 令和2年4月江戸川区児童相談所「はあとポート」開設
- 現在、江戸川区、世田谷区、荒川区が先行して事務移管。その後、港区、中野区に続き、板橋区も事務移管が予定されている。
- また台東区や中央区でもサテライトオフィスを設け事務移管の準備を進めている。
- 船橋市、柏市では2026年度に千葉県から事務移管をするために準備を進めている。

2.江戸川区児童相談所の背景と現状
・平成22年の区内小学1年生の虐待死事件が大きな背景
・指揮系統、支援対応、窓口の3つの一元化を図り、地域に開かれたものとすることを目指している。
・職員182名。
・介入と支援を分けるのではなく、地区担当制で行っている。
・虐待相談件数は2,042件と全国トップクラス。1200~1500件の事案が動いている。施設への措置入所は354名。一時保護所の定員は35名194名を保護。(数値はいずれも令和2年度)
・里親への委託率は13.6%。年少希望の里親は多く、中高生の養育需要とのギャップがあるのが現状。

3.意見交換での主なやり取り。
- どんな人に里親になって欲しいか。
- 熱意、柔軟性、子どもを優先する。家庭的環境は大事ですから児童福祉なので「支援をする」という視点が必要なのかなと感じました。
- ファミリーホームは区内に無いが必要性は?
- 拠点としての必要性がある。今後の横のつながりの中で展開していきたい。
- 政治の後押しは?
- 区議さんたちも協力的。実際のケースでも現場で家族をつなげてくれたりしている。もう一人のケースワーカーのような役割を果たしている方もいる。
- 江戸川区の特長は。
- 件数も多いので多様なケースをあること。他市に比べると多子支援が多いのではないか。一時保護は長くて4か月程度(千葉県内に比べるとはるかに短い)
- 常勤で弁護士資格職を採用していることについて
- 課長級の副参事、子供家庭部、区の法務も兼ねている。これとは別に外部弁護士とも連携。特に児童福祉法28条対応などは外部の力を借りるケースも多い。ケースワークも司法的な流れも両方大切であり、紛争にならないように予防的に関わっていく。法的なアドバイザーではなく、組織の一員としてケースに関わっている。
- 心理職については。
- 援助第一係~4の各係の中に心理職も入り、ケースに対応してもらっている。アドバイザーではなく、地域に根差した対応を目指している。また、係長はケースを持たずに対応する。
- 千葉では専門職を募集しても集まらないがどうすれば良いのか。
- できる人はどこでも引っ張りだこ。外から人を呼ぶのは難しいのではないか。5年10年かけてどう中で育てていくのか、キャリアパスも考えながら計画していくしかない。バーンアウトしないように。3年でゼネラリスト型に育てるのか、8年でこの分野スペシャルのスペシャリストとして育てるのか、など。例えば生活援護や障がい福祉課のこれはという人材を引っ張ってくるとか。
- DXによる業務負担軽減について
- 1日300~400件の電話相談がある。日頃関わっている案件での親からの電話が多いが、学校やケースワーカーからの虐待通告、クレームなど。
- 自動音声認識システムにより、メモがなくても記録が取れる。組織内での共有や上司からの助言も行い易い。委託先はNTTテクノクロス(導入費用:3,600万円)
- 子どもアドボカシー(権利擁護)の取組は
- 子供アドボカシーを実際にやるところは3%しかない。岡山、大分は先行している。第三者機関が面接するのではなく、子ども達と遊びながら、聞き取る。幼児にも入っていく。第三者機関は委託ではなく無償であり、これにより高い独立性を保つ。
- 子供の権利条例令和3年7月に制定。
- あいさつしようね。MUSTや禁止用語ではなく、自分(I)メッセージを使おう。「こうしてくれたら嬉しいな。こういうの悲しいな。」という伝え方を現場では気を付けて実践している。

4.所感
自治体として令和3年7月に子供の権利条例を制定、権利擁護委員会の設置条例も今後予定されており、児童相談所単発ではなく、江戸川区をあげて子ども達を大切にしていくという高い理念を感じます。その理念のもとに、職員体制など先行して試行錯誤をしてきて変化を恐れない姿勢が見受けられました。
ともすれば、案件の性質上、クローズドになりがちですが、非常にオープンで明るい職場・施設の環境であったことも印象的でした。専門職の育成はどこの自治体も大きな課題であり、中長期的な計画の中で育成していくこと、加えてやはり人員を手厚くしておくことに尽きるかと思います。
千葉県内の児童相談所に勤務経験のある現場の職員の方のお話によれば、江戸川区では千葉県内の2倍の人員配置をしているとのことです。これによって経験の浅い職員を充分にフォローし、特定の職員がバーンアウトしないことにつながるとのことです。
船橋市でも思い切った人員配置をしなければ、人を集まりません。来年度、施設の設計予算が計上されてくるでしょうが、仏つくって魂入れずにならないように、今後はソフト、人材面の取組みをしっかりと見ていきます。