南相馬市の復興状況ヒアリング(上) ~ロボットを通したまちづくり~

4月12、13日と旧知の南相馬市を6年ぶりに訪ねました。
目的は震災後10年の節目に現地の復興をこの眼で確かめることと、現地で頑張る旧友たちを励ますことです。現地では常木孝浩副市長をはじめ、南相馬地域の関係者の皆様にお話をいただいたことに心より感謝致します。現地の状況を読者の皆さんと共有したいと思います。

1 3.11の南相馬市の被災概要

1.津波・地震

3月11日は卒業式当日。下級生を気づかう子ども達の言葉。

2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするM9.0(最大震度7)の東北地方太平洋沖地震が発生。南相馬市内でも多くの地域が震度6弱の本震に見舞われました。

沿岸部に津波が到達したのは15時35分頃。津波は標高10mほどまで達し、海岸からおよそ3キロ内陸部にまでわたりました。1500世帯を超える家屋が被害を受け、震災による直接死と死亡届の合計は636人、関連死は513人で合計1,149人。福島県の総数4,097人の約3割を占め、県内市町村で最も多い犠牲者を数えました。

2.原子力災害

多くの人が故郷を離れざるを得なくなりました。

 2011年3月11日19時3分、福島第一原発が津波の影響により全電源喪失と冷却装置駐水不能となり、「原子力緊急事態宣言」を発表。1号機の原子炉建屋の水素爆発をはじめとした放射性物質による原子力災害に見舞われ、住民は地域からの避難を余儀なくされました。4月に入り、福島第一原発から半径20キロ圏内は、立ち入りが制限される警戒区域となり、南相馬市の小高区全域と原町区の一部地域が警戒区域となりました。

その後避難指示の区域指定となり、たくさんの住民がふるさとに戻りたくても戻れない状況に置かれました。2016年7月、これらすべての避難指示が解除されましたが、損害の度合いや補償の差もあり、旧鹿島町・旧原町・旧小高町の住民間に大きな心の傷を残しています。

2 現在の南相馬市の概要

南相馬市役所前にて。

 現在の人口は54,000人と震災前の71,000人から大きく減少しています。南相馬市は福島県の会津、中通り、浜通りという3つの地域のうちの浜通りにあります。鎌倉時代以来の歴史を持つ旧相馬氏ゆかりの地域であり、相馬野馬追は国の重要無形文化財となっています。相馬氏は元々千葉氏の流れをくみ、松戸・我孫子地域から始まっています。鎌ヶ谷市の市民祭りに南相馬地域の有志が馬を連ねてくるなど千葉県とも縁のある地域です。

 平成の合併の流れの中で、北から旧鹿島町・旧原町・旧小高町が合併してできたまちです。国史跡の浦尻貝塚があり縄文時代の古くから人が住み続けてきた地域でもあります。畜産も盛んでしたが、3.11の災害を受けて、農畜作物も大きな被害を受けました。人口減少を何とか食い止め、帰って来られるまちにしようと、ロボット振興をはじめとした震災復興を続けています。

3 ロボットを活用した震災復興

1.ロボットテストフィールド

津波に流された沿岸部の土地を活用した広大なロボットテストフィールド
施設の全体像

福島イノベーション・コースト構想という災害復興のための新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトの中に位置づけられる施設です。福島県の施設ですが、公益法人福島イノベーション・コースト構想推進機構に施設の管理運営は委託され、機構の職員は国・県・市など様々な団体から専門家が派遣されています。

ロボットの社会実装により、安全で豊かな社会の実現に貢献することを基本理念としており、主にドローン、陸海空のロボットを扱える世界でも稀な施設です。空飛ぶクルマの実証実験やインフラ点検や災害地用の実験も行われています。

国内ドローンの拠点として

国内ドローンのナショナルセンター化を目指しており、私たちが訪れた際にも強風の中で民間企業の皆さんがドローンを飛ばす実験をしていました。現在ドローンの生産の8割は中国とも言われ、その価格と性能に大手企業は手を引く状況にありますが、技術を持ったベンチャー企業がこの施設内にオフィスを構え、手厚い支援もありほぼ満杯の状況にあります。

多くの企業が入居

このロボットテストフィールドを核として、ベンチャー企業を呼び込み、そのまわりの復興工業団地にアイリスオーヤマなどの企業を呼び込み、地元の雇用や経済への波及効果を狙っています。

2.まちにロボットを

市役所で迎えてくれたペッパーくん

より実践的な実験を行うためにまちをあげて協力をしていました。市営団地、公道のみならず市内の飲食店、公衆浴場、工場、ホテル、葬祭場、保育園などが機会を提供しています。
また市内事業者等へのロボット導入を図っています。市役所ではペッパー君、宿泊先ではLOVOTに迎えてもらいました。

このペッパー君は市内22の小中学校に約5台配置されていて、南相馬のこども達には身近な存在となっています。小学校ではロボットに関するプログラミング教育を行うなど、ロボット人材輩出、ロボット技術革新のまちを目指した取り組みを展開しています。

 市では産業創造センターというインキュベーション施設を設け、ナショナルセンター からの地域への還元を図っています。世界を市場としているベンチャー企業も多く入居しており、早く巣立たせてサイクルを早くすることと、地元とのつながりを持ち続けることに苦心していました。今後はこのインキュベーション施設の卒業生的なネットワーク、OBOG会的なものをつくっていきたいと意気込んでいます。

産業創造センターでは明るい未来や世界を感じるお話を伺いました。

4 所感

6年前は南相馬ソーラーアグリパークを訪れ、再生可能エネルギー、農業、教育・研修といったつながりによる震災復興についてヒアリングさせていただいたが、その頃に比べるとロボット振興による1点突破へと大きく舵を切ったように思います。

ロボット振興ビジョンは人がまちからいなくなるといった危機感によるものでそれが大胆な構想にもつながったと感じました。元々日立との関連でテック系、板金系の職種の集積があり、これらの地元の力をロボットに繋げています。市場は世界と意気込むベンチャー企業の皆さんや小中学生へのロボット関連教育に注力するなど、未来への可能性が伺える状況です。

一方で多くの事業が補助金によって支えられており、企業が来る背景でもあります。今はスタートアップの時期だと思いますが、この補助金が続いているうちに構想や事業を軌道に載せ、地元の雇用や地域活性化につなげていくための時間は少ないという切迫感もひしひし感じます。

※南相馬市の復興状況ヒアリング(下)は5月8日にアップ予定。

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この記事を書いた人

つまがり俊明

1977年6月生れ / 船橋市出身 三咲小→御滝中→鎌ヶ谷高校→明大→ベンチャー企業→総務省→神奈川県庁→松下政経塾→船橋市議会議員

~多様性を力に変えていく社会へ~ モットーは「着眼大局着手小局」